「貯蓄から投資へ」が進まない理由…銀行預金に頼るリスクとは?
「貯蓄から投資へ」
政府のスローガンともなっているこの言葉。
一体、いつの頃から言われるようになってきたのでしょうか?
私の記憶では、2001年から2005年までの小泉政権下で、このキーワードが出てきたように記憶しています。
しかし、日本の家計資産のうち、8割強は、現金・預金と年金・保険で占められています。
「貯蓄から投資へ」の言葉は虚しく、投資がなかなか進まない状況が続いています。
今回は、日本で投資が進まない理由について見ていくとともに、日本人に大人気である金融商品の代表格である、銀行預金のリスクについても紹介していきたいと思います。
「貯蓄から投資へ」が進まない理由
「貯蓄から投資へ」という目標が進まない理由について、私は、大きく分けて、次の3点が理由であると考えています。
①日本では、投資は投機であるという固定観念が強い
②日本では、投資収入よりも労働収入が美しいと考えられている
③日本では、高齢化が進んでおり、守りの資産が多い
①については、諸説ありますが、まずは、投資と投機の定義を見ていきましょう。
投資:長期的視点で資金を投入し、利益や配当を期待する取引
投機:短期売買を繰り返し、利益を得る取引
日本人の多くはバブル時代を経験しており、
「不動産=投機」
だと感じている人も多いです。
しかし、今の時代、不動産の短期売買で利益を得ることは難しく、不動産は、地道に家賃収入を得ていく投資的な意味合いが強くなってきています。
株式投資も同様で、株主優待や配当金を長期的に狙うことができるようになってきました。
しかし、投機的な意味合いの強いFXや仮想通貨で大損をしたというニュースもよく聞くようになり、投資と投機を混同している層が、投資は危険だと認識する流れにもなってきています。
②については、
「株式で利益を得るよりも、汗水垂らして働いてお金を稼ぐほうが美しい」
という、なんともいえない感覚論(心情の問題)です。
同じ年収1000万円でも、不動産投資やアフィリエイトで1000万円を稼ぐよりも、安定した会社員として、1000万円を稼ぐほうが美しいと感じる人が多いのでしょう。
③については、金融資産の8割以上が高齢者が所有しているという事実があります。
この世代では、退職金や相続財産など、増やすお金ではなく、減らさないお金を多く保有しています。
このため、リスクの高い投資よりも、安全確実な銀行預金に流れるのは自然な流れではないかと思われます。
すると、投資をするのは、住宅ローンを抱え、日々の生活費に追われている、資産を持たない若年層に限られることになります。
これが投資総額が増えない原因のひとつだと言われています。
①②③より、日本では、構造的に、投資に進むのは難しくなっています。
では、日本人は、貯蓄を進める方針でいいのでしょうか。
今回は、貯蓄の代表格である預金について、いくつか紹介していきたいと思います。
普通預金(通常貯金)とは
普通預金は、銀行が提供してくれる個人の財布のような預金のことを言います。
今は低金利時代の真っ只中にあります。
金利が0.001%なので、税金が引かれた後は、0.0008%の利息しかつきません。
100万円預けても、1年後に10円(手取りは8円)しか増えないことになります。
振込やATM時間外引き出しの手数料のほうが圧倒的に高くなっているのが現状です。
それでも、手元に大量のお金を置いておくよりも、なんとなく安全なので、銀行の普通預金に預けている人が多いのだと思います。
普通預金口座では、ガスや電気などの料金を自動で引き落とすこともできるので、お金の管理が容易になるメリットはあります。
ちなみに、銀行の場合は普通預金と呼んでいますが、ゆうちょ銀行の場合は通常貯金と呼んでいます。
これまでは、普通預金よりも通常貯金のほうが、若干、高めの金利を維持していました。
しかし、2018年以降においては、銀行とほぼ同じ水準である0.001%に落ち着いています。
このように、三大メガバンク(三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行)を中心とするさまざまな銀行では、低金利となっています。
しかし、0.01%から0.02%の高い金利の普通預金を扱っている銀行もあります。
これがネット銀行になります。
具体的には、楽天銀行やジャパンネット銀行のことを指しています。
大手銀行の10倍の金利をつけることができるのは、インターネットに特化し、固定費を徹底的に削減していることがなせる技なのでしょう。
定期預金(定額貯金)とは
定期預金は、お金を貯めるための預金です。
普通預金よりも金利は高いですが、一定期間、お金を引き出すことができません。
どうしても、お金が必要になった場合は、中途解約することもできますが、ペナルティとして金利が下がってしまいます。
金融商品の評価3要素でみると、定期預金は、普通預金よりも収益性が高く、流動性が低い商品ということになります。
収益性が高いとはいっても、三大メガバンクで提示している定期預金の金利は0.01%程度です。
100万円預けても、1年後に100円(手取りは80円)しか増えないことになります。
しかも、1年間、引き出すことはできません。
先ほどの普通預金では、1年後に8円。定期預金は80円。
この差である72円が、引き出すことの価値であると言い換えることもできます。
定期預金には、預け入れる期間が設定されており、さまざまな商品があります。
2週間といった短期間の商品もあれば、1年とか3年といった中長期の商品もあります。
もちろん、期間が長いほど、金利は高くなります。
また、金額が大きくなると、大口定期預金といって、特別の金利が設定されている商品もあります。
預け入れ期間が長かったり、金額が大きくなってくると、金利の種類を無視できなくなります。
当初の金利が満期まで続く固定金利と、半年ごとに金利を見直していく変動金利を選択することになります。
少し複雑になりますが、預けたお金にだけ利息のつく単利型の商品と、元本とついた利息の合計に対してさらに利息がつく複利型の商品に分類することもできます。
ちなみに、銀行の場合は、定期預金と呼んでいますが、ゆうちょ銀行は定額貯金と呼んでいます。
昔、私が学生だった頃は、ゆうちょ銀行は郵便局でした。
その頃、私はよく定額貯金を利用していました。
この商品は半年間預ければ、いつでも引き出すことが可能でした。
半年過ぎれば、通常貯金(普通預金)の便利さと定額貯金(定期預金)の金利の双方のメリットを享受することができたのです。
しかも、定額貯金の金利は概ね3%を超えていました。
今思えば、いい時代でした。(その分、借りる側は悲惨でしたが。)
ファイナンシャルプラン上は、
”普通預金は普段の生活費を入れておき、余ったお金を定期預金にしましょう”
となるのですが、最近は収益性に差がありません。
1年で72円の差なので、もう少しリスクをとってもいいのではないかと思っています。
MRFとは
MRFとは、銀行やゆうちょ銀行ではなく、証券会社が取り扱う普通預金のようなものです。
普通預金や通常貯金は、元本保証(1000万円とその利息分)がありましたが、MRFには元本保証がありません。
その代わり、利回りが高く設定されているのです。
…と言いたいところなんですが、最近は、利回りが高くありません。
あくまで株式や投資信託をする予備のお金を寝かせておくための場所だと言えるでしょう。
ただ、元本保証がなくてもよいのであれば、銀行の普通預金よりも収益性は若干高いので、利用価値はあると思います。
理想の預け先は一体何なのか?
財布がわりとして、普通預金口座を活用するのはアリだと思います。
しかし、今の低金利時代、収益性を、定期預金やMRFに頼るのは非常に厳しいと言えるでしょう。
72の法則に当てはめると、100万円を定期預金に預けて、2倍になる時間は、7200年です。
気が遠くなる時間が必要になります。
収益性は、ほぼゼロといっても過言ではありません。
しかも、今の時代は、デフレ社会です。
物価が高くなっていくインフレ時代がやってくると、お金の価値が下がっていくことは目に見えています。
タンスにカネを持っているだけでお金の価値がなくなっていくのです。
その点、不動産などのモノが力を発揮する日は近いのかもしれません。
安全性と流動性の面で優れている普通預金が、資産の軸になるのは避けられないと思います。
しかし、そんな中でも、自分に合った収益性商品(株式、債券、不動産…)を、少しでも見出していくことが、資産運用のためには重要なのではないかと考えています。
そうすることで、インフレリスクを低減することが可能となり、収益性を高めていくことができるのです。