マイクロ法人・個人事業主の税金の違い…両者を使い分ける究極の二刀流とは?
年功序列や終身雇用の崩壊、働き方改革や副業解禁といった大きな波が押し寄せてきています。
そんな中、安定した会社員の道を捨て、フリーランスとして生きる人が増えています。
私自身も、会社員からフリーランスに転身しました。
フリーランスといえば、
”個人の力で仕事をしている人”
という意味合いが強いですよね。
しかし、もう少し掘り下げると、厳密には、2種類の形態があることが分かります。
「個人」の形をとるケースと、「法人」の形をとるケースです。
両者とも、個人の力で仕事をすることには変わりがありませんが、お金の流れや仕組みは全く異なっているのです。
今回は、これらの違いを明確にするとともに、究極の働き方はこれらの二刀流であることを紹介していきたいと思います。
フリーランスの2つの形態
フリーランスのうち、個人で仕事を受ける人を「個人事業主」といいます。
これに対して、会社(法人)を立ち上げて、法人で仕事を受ける人を「ひとり社長」と言います。
この「ひとり社長」や「家族だけの会社の社長」など、小さな法人のことをマイクロ法人と呼ぶ場合もあります。
法律的には、個人事業主か法人成りの違いは
「法人登記をしているかどうか」
で区別されています。
最初、私は個人事業主でしたが、法人を立ち上げたあとは、マイクロ法人の社長となり、両者をうまく使い分けることにしています。
では、それぞれの特徴を見ていきましょう。
収入に対する税金
個人事業主の場合
まず、会社を立ち上げないで、個人で仕事を受ける個人事業主の収益構造から見ていきましょう。
個人事業主の収益構造は簡単です。
売上から経費を差し引いた額が所得(儲け)になり、この所得に対して、税率がかけられます。
売上 – 経費=事業所得 ← ここに税金がかかる
これはシンプルですよね。
マイクロ法人の社長の場合
法人の税金も、個人事業と同じように、基本的には、売上から経費を差し引いた額(法人所得)に対して、税率がかけられます。
ただし、法人の場合、この経費の中に、役員への報酬も含めることができる点が大きな違いになります。
法人の場合、社長は会社から報酬を受け取っているという建前になります。
個人事業主は、事業の利益はすべて本人のものという形になり、事業の利益に対して、税金が課せられています。
しかし、法人の場合は、事業の利益からさらに社長本人の報酬を差し引いた残額に対して、税金が課せられているのです。
売上 – 経費(役員報酬を含む)=法人所得 ← ここに税金がかかる
役員報酬 – 給与所得控除(役員報酬の2割程度)=給与所得 ← ここに税金がかかる
法人を立ち上げたほうが節税できる理由
上記の式だけを見ると、個人事業主よりも、マイクロ法人の社長のほうが、税金をたくさん払わないといけないように見えます。
しかし、実態は逆です。
工夫次第では、マイクロ法人の社長のほうが、税金を大幅に安くすることができるのです。
会社の売上から経費を差し引いた残額を、ちょうど役員報酬として受け取るように設定しておけばいいのです。
例えば、売上が1000万円で、経費が600万円かかったとしましょう。
差し引くと、利益は400万円です。
これを個人事業主として仕事を受けると、利益の400万円がそのまま所得となり、これに対して、所得税や事業税がかかってきます。
しかし、同じ事業を法人で行った場合、利益となるはずの400万円を役員報酬としておけば、会社としての所得は差し引き0になってしまい、会社の税金を0とすることができます。
社長個人の視点で見てみましょう。
社長がもらう役員報酬の400万円は、「給与所得控除」という特権により、130万円近くの控除を受けることができます。(他にも、基礎控除、扶養控除、社会保険料控除などがあるので、もっと所得を減らすことが可能です。)
このため、残った270万円に対して、所得税がかかることになります。
つまり、個人事業主の税法上の恩恵と、サラリーマンの税法上の恩恵の両方を受けることができるのがマイクロ法人の社長なのです。
法人で節税するポイント
個人事業主よりも、会社を立ち上げたほうが節税しやすいことを見てきました。
しかし、話はそう簡単ではありません。
会社の役員報酬は、後出しジャンケンすることはできないのです。
あらかじめ、決めておかなければいけないのです。
だいたい売上がこのくらいで、経費がこのくらいだと予想されるので、役員報酬をいくらにしよう…。
きちんと、見通しを立てて経営していくことが重要なのです。
もし、役員報酬の額を間違えてしまえば、会社の利益が大きくなりすぎたり、個人の資金がショートしたり、さまざまな問題を引き起こすことになります。
フリーランスのうち、会社を立ち上げて仕事を受けるマイクロ法人の社長は、大幅な節税をすることも可能です。
しかし、2つの財布を管理する必要があるので、それなりに努力も必要です。
最初の頃は、節税方法について、税理士と相談しながら進めるとよいでしょう。
知らないと大損するリスクがあります…。
個人事業主と法人の使い分け
法人として支払う法人税。
個人として支払う所得税。
間接的に国に納める消費税。
経営というと、税金ばかりに目が行きがちですが、意外に影響の大きいのが社会保険料です。
少子高齢化の影響もあり、近年、社会保険料は増加し続けています。
よく、個人事業主と法人との比較している記事を見かけますが、どちらも一長一短があります。
もっと言えば、個人事業主と法人の良い点だけを使い分ける
”個人経営と法人経営の二刀流”
という究極の方法もあります。
まず、大前提として、この方法が使えるのは、限りなく一人で経営しているような小規模経営の場合に限られます。
いわゆるマイクロ法人のことです。
私の知人の例として、税理士や司法書士などのサムライ業を挙げることができます。
税理士でないとできない税務申告は個人事業として行い、その他の経理代行やコンサルティング業務については、法人で行うようにするのです。(事情によっては、逆でも構いません。)
この場合、法人から受け取る役員報酬を小さくすれば、社会保険料の負担を大きく抑えることができます。
一方、すでに法人で社会保険に加入しているため、個人事業主としては、国民健康保険や国民年金の安くない保険料を負担することはありません。
つまり、法人だけで活動をして、多額の役員報酬を受け取るときに比べて、社会保険料を大きく減額させることが可能なのです。
もちろん、役員報酬を低めにすることで、個人の所得税を抑えることもできます。
二刀流のデメリット
税金と社会保険料。
この2つの支払いを大きく減額させることのできる裏技である二刀流作戦。
しかし、この方法にもデメリットが2つだけあります。
まず、一点目のデメリットとしては、厚生年金の話を挙げることができます。
社会保険料のうち、厚生年金保険料を減額するということは、将来もらえる厚生年金の金額も安くしているということになります。
現在の厚生年金保険料を減らすことで、現在は幸福かもしれませんが、将来に負担を持ち越していると見ることもできます。
このあたりは、社労士の先生に相談して、最適な社会保険料の金額を設定するとよいでしょう。
二点目のデメリットとしては、経費按分の話を挙げることができます。
法人と個人事業主とで、事業を切り分けるとはいえ、さまざまな経費をどう区別するのかが重要な問題となってきます。
事務所は個人所有か法人所有か?
車は個人所有か法人所有か?
携帯電話は個人所有か法人所有か?
など、結構、完全に切り分ることは難しいです。
完全に切り分けることのできる事業であればいいですが、そう簡単にいかないケースが多いのです。
下手すれば脱税とみなされるケースもあるので、ここは、税理士の先生ともよく相談するといいと思います。
まとめ
以上、今回は、個人事業主と法人の違い、および、究極の二刀流という方法を紹介しました。
しかし、事業を完全に切り分けることができない等、二刀流は容易に実現できる話ではありません。
私も事例をいくつか知っていますが、どこも試行錯誤しているようです。
私自身も、まだうまく活用できている状況とはいえません。
軌道に乗れば、また共有させていただきたいと思います。
法人経営と個人経営の究極の二刀流作戦。
ご自身の事業特性に合わせて、うまく活用していってもらえればと思います。